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【終末の獣】

■西日本沈没

雅楽は、ジューダスに言われた通りにヨーロッパに来てふらふらしていた。
「休暇をとれ」という言葉の通り、向こうからは何の連絡も無い。
もしかして本当にクビになったのかもと薄々思いつつあった。

何をするでもなく、言われていた3ヶ月が経とうとしていたある日、何の変哲も無い街角で、全然知らないオッサンに声をかけられた。

「あんた東洋人だね。日本人か?」

「そうだけど」

「こんな所で油売ってても良いのか?」

「何が?」

「テレビ見てみろ。そこのパブにあるから」

(……新手の客引きかなんかかな)

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別に用事も無かったので、言われた通りに「そこのパブ」へと向かう。
中では、店にいる人間全員が、テレビに釘付けになっていた。

日本の西部で大地震が発生し、大変な被害が出ている。

言い方を様々に変えながらも、結局はそれ以上の情報は何一つ得られない。それは、見ている人間の不安を殊更に煽り立てる効果があった。

店に居る大半の人間にとって、事態の大きさに注目こそしているものの、このニュースは所詮は他人事だが、深刻な顔をしている人間も数人いた。ニュースを見ながら、どこかにひっきりなしに電話をしている者や、ただ呆然としているのも居る。そういう光景を尻目に、雅楽は、とりあえずビールを注文していた。

その後、何日もかかって、日本政府からの正式な発表も入るようになった。それで少しずつ状況が明らかになってきたが、良いニュースは何一つ無かった。

箱根より西側は壊滅状態に陥った。
地面は沈下して低地は海に沈み何もかもずたずたに寸断されている。
被災者は総人口の40%以上にも及ぶ見込みである。

……死傷者は推定で4千2百万人以上。

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■西日本沈没後

地震の発生から数日経ったある日、UGNの本部から呼び出しがあった。

(なんだ、クビになったんじゃなかったんだ……)

ジューダスとは別ラインだったが、日本があの様子では当面はこの辺にいる事になりそうだし、そうなるとUGNを無視するのも何なので、とりあえず出向く事にした。ちなみに、相変わらずジューダスからは全く連絡が入らないので、地震で死んだものと思う事にしていた。

「……先輩、雅楽先輩じゃないですか?」

「は?」

本部の建物に程近い、何の変哲も無い街角で、全然知らない人に声をかけられた。流暢な日本語で東洋人なのでたぶん日本人だ、と思われる。細身のスーツに身を包んだ、背の高い、若い男だ。年齢は雅楽とそう変わらない感じがする。少し濃い目の顔をした、なかなかの男前だ。

「えーと、誰?」

「やだなあ、冗談きついですよ。俺です。原です。訓練のときはお世話になりました」

「……」

「原です。原バンデラス拓也です」

「あー、バンデラス君だ」

「あはははそうですバンデラスです」

名前しか憶えていないので、確証はまったく持てないのだが、原と言う男は、確か日本人とどっかの国の人とのハーフの人だった、気がする。雅楽がUGNに入ったばかりのオーヴァードを訓練する施設を手伝わされたときに、原は訓練させられる側にいて、何かで関わったような、気がする。

「本部に呼ばれたんですか?」

「そうだけど」

「おおー、さすが先輩です」

「バンデラス君は?」

「僕もです」

段々と思い出してきたのだが、話をしていると何か馬鹿にされているような気がするので、雅楽は原の事があまり好きではなかったのだった。相手はそうでもないらしいが。

「いやあ、こんな時ですし、こんな所で先輩に会えて嬉しいですよー」

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通された部屋にはエージェントが何人も待機していた。彼らはたまたまヨーロッパに居た日本人や、日本と関係の深い者達だった。

説明によると、地震の直後から、日本の支部と一切連絡が取れなくなったので、日本について知識の有るエージェントで調査隊を組織し、派遣する事になったらしい。調査隊に加わりたい者は詳しく説明するので別室に移ってくれと言われる。

ほとんどの人間がぞろぞろと移動する中、当然のように居残っている人間がいた。

2人いた。

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「先輩、なんで行かないんですか?」

「お前も残ってるじゃないか。行かないのか?」

「あたりまえじゃないですか。やばそうでしょ」

「だよねー」

職員に汚いものでも見るような眼で見られつつ、帰りかけたとき、雅楽の携帯に連絡が入った。知っているアドレスからのメールだ。文面も想像がつくが、一応確認した。

『ネズミさん、いつもの所で』

携帯を閉じかけた時、原が横からぐぐっと覗き込んできた。

「なんですかこれ」

「覗くなよ犯罪だぞ」

「誰からですか?女ですか?さっすがー。俺にも紹介してくださいよおー」

「……」

こいつは本当にウザいのだった。
雅楽は、原を無視して、いつもの所に向かった。

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■闇の営業顛末

店に入ると、相手は既に席に着いていた。見知った顔の、若い白人男性だ。小柄だが、がっしりしていて、雅楽と並ぶと結構大きく見えた。男の会釈に応えながらコーヒーを注文しながら、雅楽は男の前に座った。

「今日は早いですね」

「うん。丁度出てたから」

男の名前はフェルディナンドだと聞いていた。何か後ろ暗い団体の構成員らしい、が、詳しい事は知らない。とりあえず、彼は、雅楽にUGNに内緒のアルバイトを持ってきてくれる人だった。その団体は後ろ暗いが資金は潤沢なようで、金払いはとても良い。雅楽にコーヒーが運ばれてくるのを待って、フェルディナンドは話を切り出した。

「運んでもらいたい物があるんですけど、そういうの得意でしたよね?」

「良いよ。得意。日本以外だったら何処でも行くよ。あー、でも日本じゃなくても海越えるのは嫌かな疲れるんだよねー」

「ああ、それなら大丈夫です」

明るい口調で言うと、テーブルの上に地図を広げた。かなり広域の地図だ。地図の上を指がするすると辿っていき、やがて、ヨーロッパを横切り黒海とカスピ海を越えたある一点を指し示した。

「行ってもらう場所はここですから」

「あー、越えてない。海は越えてない」

「運んでもらうのはこれです」

フェルディナンドが、足元に置いていた紙袋から、大きさも形もケーキの箱に良く似た紙製の箱を取り出して、テーブルの上に置き、雅楽の方へ押しやった。

「越えてないけど遠い」

「詳しい位置はここ」

雅楽の言葉には応えず、紙切れを一枚渡す。仕事の話はそれで終わった。

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箱は随分軽い。内容物は何かの部品で、かなり小さいもののようだ。中でしっかり固定されているようで、振り回しても何とも無い。

指定された場所へ行くと、そこは何かの採掘現場だった。現場の責任者ぽいのに箱を渡すと、ものすごく喜ばれ、同じような箱を渡されてヨーロッパの方に運んで欲しいと頼まれる。別料金出すというし、どうせ戻るのでと引き受け、戻ると、もう一度行ってほしいと頼まれる。そんなこんなで何度も往復する事に。

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■勤労少年

あれから2ヶ月以上過ぎたが、雅楽はまだ仕事を続けていた。何度往復したかもうわからない。少々飽きは来ていたが、どうもやめ時を逸している感じだった。

今日も、ヨーロッパから箱を持ってすでに見慣れ始めている町にやってきた。見慣れ始めた、と言っても、箱を渡すとすぐに帰ってしまうので、別段この町に愛着は無い。出発をぐずぐず延ばしたのでもう夕方だった。

いつものように採掘現場へ向かって歩いていると、少年と少女の2人連れとすれ違った。

「……あれ、雅楽さん?」

「あー、浦谷部君?」

浦谷部は、動きやすいズボンとシャツを着た、いかにも労働者という格好をしていた。真っ黒に日焼けをした顔は精悍さを増し、以前あったあどけない感じはなくなっている。そして、リカが浦谷部の手を掴んでいた。彼女は日に焼けた事と髪が少し伸びたこと以外はあまり変わりが無いようだった。

「何してんの?」

「俺、大和田先生にリカちゃんと2人で日本を出ろって言われて。それでここで暮らしてます。そこの採掘現場で働いているんです」

「なんだ。俺ここんとこしょっちゅう来てるんだけど。一回も会わなかったね」

2人は、同じ事件に関わった、と言うだけで特段深い知り合いでもないし、あり得ない場所で再会はしたものの、特に報告する近況も無い。お互いが相手の状況をイマイチ飲みこめないまま会話をしていると、採掘現場の方から大きな音がした。

「なんだろね」

「行きましょう!!リカちゃんは先に家に帰ってて」

浦谷部が走り出した。雅楽も後を追う。採掘現場へ続く坂道を駆け上がって、辿りついた2人の目の前で、採掘の為に使われている大きな掘削機がゆっくりと倒壊していった。掘削機は、何か大きな力が横から加えられたかのようにひしゃげている。ひしゃげた面には幾条もの深い傷が走り、それは巨大な獣の爪痕のようにも見えた。

今日の作業はおおかた終わっているため、昼間よりも人の姿は少ない。だが、居残って作業をしている労働者は居て、彼らが大きな叫び声を上げながら逃げ惑っている。労働者を監督している男が、怒号をあげているが、聞く耳を持つものは居なかった。

不意に、全ての音が消えた。
掘削機の周りに、光の筋が何度か走る。次の瞬間、光にそって掘削機がバラバラになり、破片と化した部品が労働者達を避けるように落下した。

残った掘削機の土台の部分に、ふわりと、少女が1人降り立った。ピンと伸ばされた右腕の先から、光の筋が、刃のように伸びている。黒い髪は伸び放題で、格好も全体的に薄汚れているが、そんな状態でも、その表情は凛としていて、何か人の目を引く雰囲気があった。

彼女は、浦谷部が来る前から、ここで働いていた少女だった。日本人だという話だが、一度も口をきいた事はない。他の労働者達と和やかに談笑しているのを見かける事はあるのだが、何故か浦谷部だけがまったく無視されているのだった。

「……あれをやったのは、あなたね?」

その言葉が、初めて浦谷部に向けられた。語調は静かだが、随分と威圧的で、冷たい。言葉の後ろには怒りが透けて見えた。言われて、浦谷部は、あわてて首を振った。

「俺じゃない。俺は音を聞いてからこっちに来たんだ」

「嘘ね。あんな風に壊せるのは、あなただけ」

「俺はやってない」

「話にならない」

「俺や君の他にオーヴァードが居るのかもしれないだろ」

「……」

浦谷部の言葉を聞いた少女の顔に、隠しようの無い嫌悪感が浮かんだ。少女は、侮蔑と自嘲のないまざった声で、小さく、オーヴァード、とつぶやいた。浦谷部は様子の変わった少女に一瞬戸惑ったが、周りを見回して、言った。

「こんな所で言い争いをする前に、怪我人を助けるべきじゃないのか!?」

「……」

少女の腕から刃が消えた。喧騒が戻る。少女は浦谷部を睨みつけると、混乱の中に入っていった。浦谷部は掘削機の傷を見る。確かに、キュマイラの力でもないと無理な壊れ方をしていた。しかし、ここで考え込んでも何も解らない、今はやる事がある。と、浦谷部も労働者達のほうへ行こうとしたときに、雅楽がどこかからひょっこり現れた。

「何今の子。知り合い?怖いねー」

「雅楽さん何してたんですか」

「あははは」

雅楽は巧妙にワーディングに巻き込まれた一般人のフリをしていた。

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こんな時だけ変に達成値が高くて少女に気付いてもらえなかった。
PLは突っ込み待ちの姿勢に入っていたので少し悲しかった。

機械は大破したものの怪我人は居なかったようだ。もう作業にならないし、暗くなってきたのでその場は解散になった。きっと明日の作業は機械の破片の片づけだろう。混乱の中、雅楽は箱をいつもの奴に渡して持って帰る箱を受け取った。帰りはなんとなく浦谷部君と一緒になる。町の入り口まで、リカが迎えに来ていた。

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リカは、浦谷部を見つけるや駆け寄り、服の裾をしっかり掴んだ。顔を上げて、頭を優しく撫でる浦谷部を見て、少し後ろに居る雅楽を見る。その視線は、雅楽の持っている箱で止まった。眉間に皺を寄せる。真剣な目つきだった。

「これくらい、小さい……赤いの…………石?」

急に言うと、指で小さな円を作った。

「どうしたんだい?」

「ちょうだい」

箱を指差す。

「ちょうだい」

「浦谷部君、この子何いってんの?」

「さあ?……ダメだよ、リカちゃん。これは雅楽さんのだから」

「じゃあ、あたしいっしょにいく」

「ダメだって」

「あはは、俺帰るわ。じゃあねー」

面倒になったので雅楽はそのままその場から消えた。

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■闇の営業始末

「先輩ちょっと相談があるんですけど」

「今忙しいから無理」

「おごりますよ」

「じゃあ行く」

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「最近、発症者が急に暴れ出す事件が頻発してるんですけど、知ってます?」

「知らない。ジャームとは違うの?」

「ええ。何度か相対したんですけど、後先考えずにものすごい力で攻撃してくるんです。普通、本能的に力を抑えますよね?そういう感じが全然無くて……とにかくマトモじゃない。それで、その連中の周囲から決まって発見されるものがあって」

テーブルの上に差し出された写真には、砕け散っていはいるが、濁った赤色の石が写っている。

「この石が何か関係あると、本部は考えているようです」

「……」

「最近、どこかからこのあたりに大量に持ち込まれてて、ばら撒かれてるんです。でもルートがまったく掴めなくて。先輩、何か知りませんか?」

「知らない」

雅楽は、即答すると、原の前にあるグラスを掴んで中の酒を一気にあおった。

「……先輩、何笑ってるんですか?」

急に、カウンターの奥が騒がしくなった。
カウンターから続く厨房への通路から店側へ、男が1人転がり込んで来る。男はまっすぐ雅楽のほうに向かって来た。フェルディナンドだ。カウンターに手を着いて、よろめきながら歩いてくる。見るからに、致命傷を負っている。血の染みはシャツを真っ赤に染め、上着やズボンまで汚していた。

「雅楽さん……すいません。マズってしまって……」

フェルディナンドは雅楽の足元にうずくまった。

「先輩の知り合いですかって何笑ってるんですか?」

「これを……」

震える手で、フェルディナンドがポケットから何か取り出して、差し出し、そのままの姿勢で意識を失った。それは紛れも無く写真の赤い石で、砕けていない完全な状態だった。

「先輩、まさか……てゆうかだから何笑ってるんですか?いい加減にしてください、質問に答えてください」

雅楽は原に向かって手を振って、深呼吸すると、真面目な顔になった。

「彼は知り合いだけど石の事は知らんよ治療して話聞けばいいんじゃないの」

一息で言うと、はい証拠、と石を原のスーツのポケットに押し込んだ。

「よかったね。砕けてないのは初めてでしょ?お手柄だねー」

「この人、どうみても今から病院に運んでも手遅れですけど」

話している間にもどんどん出血しているのがわかる。

「近くに知ってる医者が居るから。そこなら間に合うかもね。だから」

「解りました」

みなまで聞かず、原が、フェルディナンドを担いだ。騒然としている店内を尻目に、裏口から店を出る。雅楽が先導しながら、路地を走る。2人とも、一言も喋らない。

「(フェルディナンド君まだ生きてるなあ意外としぶといなあ。でもこのままにしとくと、どっちにしろバンデラス君うるさそうだなあ。でもオーヴァードは面倒だな。どうしようかな)」

病院にはすぐに着いた。古ぼけたビルの2階へ急ぐ。が、医師は不在だった。

「どーしようか」

「……仕方ないです」

原が、フェルディナンドを背中から下ろして、廊下に寝かせた。脇にしゃがみこんで、胸の辺りを軽く撫でると、一瞬で傷がふさがった。苦しそうにうめいていたのがすぐに規則的な呼吸へと変わる。

「なんだ、そんなのできるんじゃないか」

「でもこれは……」

原の言葉の途中で、フェルディナンドが突然飛び起た。雅楽に軽く頭を下げると、ドアを突き破って、病院の中へ飛び込み、暗闇の中に消えた。次の瞬間、拳銃の発射音が2度、鳴り響く。何かを弾く様な音が数回響き、1拍遅れて暗闇から飛び出してきた弾丸は、それぞれ複雑に兆弾しながら、最後は左右から、正確に原の頭部を襲った。金属のぶつかり合う音。両断された弾丸が2つ、地面に落ちた。原の手には何時の間にか刀が握られている。

「覚醒したねー。ノイマンかな」

「くそ、逃がすか…」

すぐに原も部屋に飛び込んだが、程なくして出てきた。

「逃げられましたよ」

これまで見た中で、一番渋い顔をしている。

「……先輩、何笑ってるんですか?それどころじゃないですよ。今日の所は帰りますが、上には報告しますからね!?たぶん出頭命令が来ますからね!!」

まくしたてると、原は去っていった。
雅楽は、その足でホテルに戻って荷物を纏めてチェックアウトした。

「UGNやーめたーーーー」

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10面振って10がでたらフェルディナンド覚醒するよっていわれて10を出した。

GMの取った強硬手段のおかげでようやく雅楽はスタートラインに立とうとしています。なんというか、次からがオープニングフェイズ本番です。本当いい加減にしろと思う。

これをスルーしてたら最終兵器ジューダスが出動していたらしいと聞いてもうちょっと粘ればよかったと思った。いい加減にしろ。

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■大和田からの依頼

UGNを自主退職した雅楽は、特に目的も無く放浪していた。
大都市部等のあからさまにUGNの勢力が強そうな場所は一応避けているが、あまり警戒しているわけではない。いきなり消しにかかってくるとは思えないし、そうなったとしても逃げおおせる自信があった。

金はあまり持ち出せなかったが、元々あまり贅沢をする方でもないので当面は持ちそうだ。だから、その日も、名前も知らない田舎の町の小汚い酒場で、パンをもそもそ齧っていた。カウンターとテーブルがあってなかなか広い。夜は賑わうんだろうが、今は少しその広さが寂しい感じだ。カウンターの端のほうに座って、お酒飲んじゃおうかやめとこうかぼんやり考えていると、すぐ隣の席に誰かが乱暴に座った。大男だ。他の席はいくらでも空いているのに迷惑だな絡まれたら嫌だなと雅楽は思った。

男は、アラブ風のゆったりとしたワンピースのような民族衣装に身を包んだり、頭には長いスカーフを被って黒い輪でとめたり、顔の右側の顎から額にかけて肉を抉り取った跡のようなひどい傷跡があって、無精ひげが生えていたりと随分様子が変わっていたが、知っている人だった。

「大和田。随分ワイルドになって」

大和田は、雅楽の知らない言葉で何かを注文すると、2つ運ばれてきたグラスのうち1つを雅楽に渡した。

「あんた、何かやったのか。UGNが探してるぞ」

「あ、やっぱり。俺UGN辞めたんだよね」

グラスの中の液体はやたらと強い酒だった。独特な味がする。美味くはない。

「なんだこれ。俺を酔わせてどうする気なんだ」

大和田はニヤニヤしながら雅楽を見ている。以前会ったときの『良い先生』の面影は無いが、本来はこういう奴なんだろう。

「……仕事をする気はあるか?」

「FHの?」

雅楽があからさまに嫌な顔をした。せっかく自由になった所だ。その手の組織には当面関わりたくない気分だった。そういう雅楽の様子に頓着することなく、大和田は話を続けた。

「あたりまえだろ、と言いたいが。まあ少しややこしい話でな」

「FHの仕事はヤだ」

「ある人物を殺す手伝いをして欲しい」

相手が一応拒絶の意志を示している事には頓着せず、大和田は写真を出した。写っているのは有名な男で、雅楽も顔は知っていた。コードネーム・ディアボロス。雅楽は益々渋い顔になった。

「これお前の所の幹部的な奴じゃないか」

「そうだ。地震の後、反旗を翻してな」

「思いっきりFH絡んでるよね」

「あたりまえだろ。俺を何だと思ってるんだ」

「自分とこの不始末だろ。そっちで何とかすれば」

「したさ。2回程。それで殺しきれなくてな」

「それがウリの奴なんだろ」

「まあそうなんだが。1度目はともかく2度目はFHが本気で消しにかかったんだぜ。完全に止めをさす必要があってな。それこそ、焼き尽くすような。ほら、おまえ適任だろう?」

雅楽は、ちょっと前に似たような仕事をして酷い目にあった気がしていたので、一応きっちり確認しておくことにした。

「手伝いってのは」

「他所と共同戦線を張ることになってる。戦うのは別の奴だ」

「うーん」

それなら良いかな、と思いはじめていた。断るにしても受けるにしてもたいした理由は無い。気が向くか向かないかだ。

「もちろん、報酬も用意する」

と言って、大和田がカードを1枚取り出した。

「何それ」

「まあ、もう何ヶ月かしたら発表される話なんだけど」

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日本政府は無政府状態になっている西日本を統制するための準備を進めているが、戸籍や住民票は根こそぎ失われてしまっている。

その為、新たに国民である事を証明し行政等のサービスを受ける為に必要になるカードを発行し配布する事になっている。

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「ただし、まあ、これ数が全然たりない事になる予定になってるんだな」

「へー」

「この機に、何ていうかな、国民を選別しようなんて考えなんだろうな」

「結構余裕あるなー」

「で、ここに、空のカードが一枚有る。自分で使うもよし、必要とする人間に譲るもよし」

「手伝いでいいんだよな」

「もちろん」

「じゃあやる」

「じゃ、これチケット。ここでもう1人と合流してくれ」

飛行機のチケットと緯度経度の書かれたメモを渡された。

「……日本行きだ」

「よろしくな」

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ミドル・フェイズに続く


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