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【終末の獣】

■どこまでも虎口

雅楽は、ここ数日の心労と前日ほとんど寝ていない事と戦闘で多大なダメージを被った事とかもろもろで、目は霞んでほとんど前が見えてないし、普通にまっすぐ歩くのも辛かったので、浦谷部が泊まっていた別荘に戻った。とりあえず寝ようと思った。

ドアを開けると、キッチンで何かごそごそしている気配がする。浦谷部君も戻って来たのかな、と、思いながら、雅楽はそのまま入り口で倒れた。

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……と思ったら、ベッドの上で目覚めた。
長らく1つ所に定住していないので、目覚めて見慣れない天井っていうのは日常的な事だったが、天井が揺れているというのはちょっと珍しい。

まだぼんやりしている頭を抱えて、ゆっくりと起き上がる。ゆれているのは天井ではなくてベッドと言うか、床そのもののようだ。狭いが、清潔な部屋だ。小さなはめ殺しの窓がある。窓の外には海が見える。

記憶を辿る。

誰かに介抱されたような気がする。
飯を食わせてもらったような。
風呂にも入った、かも。

服は清潔なものに変わっていた。

部屋から出て見ると、正面の壁に写真がべたべた貼ってあった。

「……や、やられた……」

プランナーと一緒に写ってる写真だった。
フリなのかそうでないのかはわからないが、割と真に迫ってる。

「やだもうおよめにいけなーい」

写真を一枚取り、ひらひらさせながら歩く。

(……何でこう、この手のヤツばっかり……ほんと、ヤんなるな……)

隣に部屋がもう1つ、その向こうに階段があって、たぶん甲板に続いている。隣の部屋の前の前に紙が張ってある。

『扉:ようこそFHへ。階段:UGNか第三勢力かそれ以外の何か』

雅楽は迷わず扉を開けた。
プランナーが寛いでいる。雅楽は、はがしてきた写真を部屋の中に投げ入れた。写真はひらりと舞うと、床を滑り、2人の間で止まった。

「ごせんまんユーロ」

雅楽の言葉に、プランナーが、ボストンバッグを投げてよこした。

「前にも言ったが、五千万一括は無理だ」

「いいよコレで。じゃーね」

雅楽は扉を勢い良く閉め、そのまま階段を上がっていった。

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■現実改変

『……これが君の元に届いているという事は、私はもうUGNの指揮を取る事ができる状態では無いのだろうね。リヴァイアサンの遺言だと思って、聞いて欲しい』

『君の元にいる少女は、おそらく、マスター・オブ・ライフそのものか、良く似た性質の力を持っている。彼女の力を完全に目覚めさせる事が出来、そして、その力がマスター・オブ・ライフに匹敵するものであったなら、彼女は世界の有りようを大きく変える事すらできるだろう。彼女の力が必要だと思うのなら、次のトラックに入っている歌を聞かせると良い。必要でないと思うなら、このデータは破棄してしまいなさい。どうするかは、君が、決める事だ』

結局、浦谷部が見つけた土地は、断崖絶壁の所為でおいそれとは普通の人間が立ち入れないため、あまり評価は得られなかった。それでも、普通に働くより遥かに良い報酬を得て、リカとの平穏な暮らしは続いていた。

そんな中、浦谷部の元にCD‐ROMが一枚送られてきた。最初は再生することもせずに捨ててしまおうとしたが、結局中を見てしまった。全てを忘れようとしても、その内容は決して頭を離れる事は無く、日本の様子が耳に入る度に、何度でも蘇ってきた。やがて、浦谷部は、決めた。

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見渡す限り、雪に覆い尽くされた山が連なっていた。雪の照り返しを逃れようと目をそらしても、空は真っ青で、太陽の光は容赦なく瞳を灼く。地球上で、一番高い場所。浦谷部は、足元を良く確認すると、抱きかかえてここまで連れてきたリカを、そっと降ろした。

歌を聴いたときから、リカは、外見以外の全てが変わってしまった。全てを見透かすような目。時々、誰にも理解できない様な難しい言葉が口をついて出る事があり、そういう時のリカは、とんでもなく大人びて、大人を通り越して老人のように思える事すらあった。ただ、そういう自分が周囲から見て奇異である事にすぐに気が付いたらしく、すぐにリカの振る舞いは以前のものに戻った。浦谷部は、全てを側で見届けていた。何がどう変わっても、彼にとって、リカが護るべき対象である事だけは変わりがなかった。

「リカちゃん、大丈夫?」

「うん。場所はここで良い。やり方はわかる。ねえ、これは……」

リカが、小さな手で、浦谷部の手をそっと掴んだ。

「リョウが、望んだ、事なんだよね?」

地震で失われた命を
傷つき、今も苦しみ続けている人達を
あの日壊れてしまった全てを
世界を

「……ああ、そうだよ」

「わかった」

リカの手が、浦谷部の手から離れた。真っ直ぐに前を見据えたまま、大きく息を吸い込んで、歌うように、口を動かす。浦谷部には、カン高い音にしか聞こえない。音はすぐに終わった。リカが、浦谷部を見上げる。また、浦谷部の知らない表情をしていた。

「終わったよ」

「そうか、ありがとう」

気にも留めずに、浦谷部は、リカを抱え上げて、歩き出した。



この日、この時を境に、あの地震は消えた。



日本

人口約8千万

東側は中央に山脈が連なり、関東平野等の平野部に人口は集中している。
西側は居住には適さないわけではないが、人口密度は極端に低い。

地震の記憶は消えた
地震の犠牲者達の記憶は消えた

世界は平穏を取り戻した。

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ごめんなさい
いなくなった人を元に戻すことは出来なかった

ごめんなさい
私はリョウのそばにいてはいけないと思う
誰のそばにもいてはいけないと思う
だから、いなくなります

ほんとうにごめんなさい




リカの残した書置きを前にした浦谷部の手には、赤い石が乗っている。
あの事件の時に手に入れて、ずっと持っていたものだった。
もう1つ、体に入れれば、俺はリカと同じになる。
同じになれば、リカのそばで、リカを護ることができる。
奇妙な確信に従って、浦谷部は、迷わずそれを飲み込んだ。

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生い茂る木に埋もれる様にして、廃屋が建っていた。壁はあちこち崩れ、屋根はかろうじて柱に乗っかっているだけで、満足に雨風をしのぐ事が出来る様には思えない。そこを目指して、身長の半分弱も有る大きな桶を引きずるようにした少女が、下生えを掻き分け掻き分け、歩いてくる。桶の中には水が半ば程まで入っているが、引きずられた衝撃で、どんどん水が零れている。この分だと、目的地に着く前に、水は大半零れ落ちてしまうに違いない。少女は、立ち止まり、大きく息をついて、桶に軽く寄りかかった。

その時、横から伸びた手が、軽々と桶を持ち上げた。
支えを失ってよろけた少女を、もう片方の手が支える。
少女が見上げると、懐かしい笑顔があった。

「ただいま、リカちゃん」

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【終末の獣】終


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